2004年11月21日

思考の達人

森鴎外1862-1922
ougai mori

「妄想」(2)

やった後で苦しむような幸せを求める人が
多い中で、鴎外は自然に、苦しまない幸せ
の世界(芸術と学問)を歩んだ。
芸術と学問を愛せる人は幸せである。
闇の中を歩み続けた鴎外の文章は暗い。
しかし、その歩みは何としっかりとしている
ことか。鴎外の文体が意味するもの、それは
「思考の達人」である。


<後悔しない幸福への道>
「宴会嫌いで世にいう道楽というものがなく、
碁も打たず、将棋も差さず、球も撞(つ)か
ない自分は、自然科学の仕事場を出て、手に
試験管を持たなくなってから、まれに画や彫
刻をみたり、音楽を聴いたりするほかには、境
遇の与える日の要求を果たした間々に、本を
読むことを余儀なくせられた。
ハルトマンは人間のあらゆる福(さいわい)を
錯迷として打破して行く間に、こんな意味のこ
とを言っていた。大抵人の福と思っている物に、
酒の二日酔いをさせるように跡腹の病めないも
のはない。それのないのは、ただ芸術と学問と
の二つだけだと云うのである。
自分はちょうどこの二つのほかにはすることが
なくなった。それは利害上に打算して、跡腹の
病めないことをするのではない。
跡腹の病める、あらゆる福を生得好かないので
ある。」

注:
「跡腹の病めないものはない。」:跡腹を病む
とは、出産後の腹痛。転じて、事の過ぎたあと
で苦しむこと。


panse280
posted at 09:14

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