2015年07月25日

温泉に女が入ってきた

「草枕」(19)

夏目漱石 1867-1916
sohseki natsume

2006.5.20 第131刷発行(新潮文庫)
--漱石の文章を味わってみる--

<温泉に女が入ってきた>

「何とも知れぬものの一段動いた時、余は女と
二人、この風呂場の中に在る事を覚った。

注意したものか、せぬものかと、浮きながら考え
る間に、女の影は遺憾なく、余が前に、早くも
あらわれた。

漲ぎり渡る湯烟りの、やわらかな光線を一分子毎
に含んで、薄紅の暖かに見える奧に、漾(ただよ)
わす黒髪を雲とながして、あらん限りの背丈を、
すらりと伸した女の姿を見た時は、礼儀の、作法の、
風紀のと云う感じは悉く、わが脳裏を去って、只
ひたすらに、うつくしい画題を見出し得たとのみ
思った。」

panse280
posted at 08:56

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