2015年06月22日

吾輩は腹がへったのだ

「吾輩は猫である」(34)

夏目漱石 1867-1916
sohseki natsume

2009.9.15 第10刷発行(新潮文庫)
--漱石の文章を味わってみる--

<吾輩は腹がへったのだ>

「吾輩は主人と違って、元来が早起の方だから、この時
既に空腹になって参った。・・・台所へ這出した。・・
朝飯の催促をしてやろう、・・吾輩はにゃあにゃあと甘え
る如く、訴うるが如く、或は又怨ずるが如く泣いてみた。
御三は一向顧みる景色がない。・・今度はにゃごとやって
みた。その泣き声は吾ながら悲壮の音を帯びて天涯の遊子
をして断腸の思あらしむるに足ると信ずる。御三は恬として
顧みない。この女は聾(つんぼ)・・声盲なのだろう。
・・・
ひもじい時の神頼み、貧のぬすみに恋のふみと云う位だか
ら、大抵の事ならやる気になる。
にゃごうにゃごうと三度目には、注意を喚起する為めに
ことさらに複雑なる泣き方をしてみた。自分ではベトヴェン
のシンフォニにも劣らざる美妙の音と確信しているのだが
御三には何等の影響も生じない様だ。」

panse280
posted at 07:54

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