2015年06月07日

縁側にて

「吾輩は猫である」(20)

夏目漱石 1867-1916
sohseki natsume

2009.9.15 第10刷発行(新潮文庫)
--漱石の文章を味わってみる--

<縁側にて>
吾輩の主人が麗らかな春日に縁側で甲羅を
干している。気の毒なことに毛布(けっと)
だけが春らしくない。

「製造元では白の積りで織り出して、唐物屋
でも白の気で売り捌いたのみならず、主人も
白と云う注文で買って来たのであるが、何しろ
十二三年以前の事だから白の時代はとくに通り
越して只今は濃灰色なる変色の時期に遭遇しつ
つある。・・今でも既に万遍なく擦り切れて、
縦横の筋は明かに読まれる位だから、毛布(ケット)
と称するのはもはや僭上の沙汰であって、毛の字
を省いて単に”ット”とでも申すのが適当である。
・・
(主人の)頭の裏には宇宙の大真理が火の車
の如く廻転しつつあるかも知れないが、外部から
拝見したところでは、そんな事とは夢にも
思えない。」

panse280
posted at 16:03

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