女性の影響は莫大

「吾輩は猫である」(12)

夏目漱石　1867-1916
sohseki natsume

2009.9.15 第10刷発行（新潮文庫）
--漱石の文章を味わってみる--

＜女性の影響は莫大＞
「吾輩は・・気分が勝（すぐ）れん時は必ずこの
異性の朋友の許（もと）を訪問して色々な話をする。
すると、いつの間にか心が晴々して今までの心配も
苦労も何もかも忘れて、生れ変った様な心持になる。
女性の影響というものは実に莫大なものだ。
・・
その背中の丸さ加減が言うに言われん程美しい。
曲線の美を尽している。尻尾の曲がり加減、足の
折り具合、・・吾輩はしばらく恍惚として眺めて
いたが・・我に帰ると・・低い声で「三毛子さん
三毛子さん」といいながら前足で招いた。
・・「あら先生」・・町内で吾輩を先生と呼んで
くれるのはこの三毛子ばかりである。・・吾輩も
先生と云われて満更悪い心持ちもしないから、
はいはいと返事をしている。」