2015年05月29日

餅との格闘

「吾輩は猫である」(11)

夏目漱石 1867-1916
sohseki natsume

2009.9.15 第10刷発行(新潮文庫)
--漱石の文章を味わってみる--

<餅との格闘>
正月にあまった餅を発見して吾輩初めて餅を喰う!

「あぐりと餅の角を一寸ばかり食い込んだ。・・
歯を引こうとすると引けない。もう一辺噛み直そう
とすると動きがとれない。・・噛めば噛む程口が
重くなる、歯が動かなくなる。・・噛んでも噛んでも、
三で十を割る如く尽未来際方(禅語:未来のはてまで)
のつく期はあるまいと思われた。・・煩悶の極
尻尾をぐるぐる振ってみたが何等の効能もない、耳
を立てたり寝かしたりしたが駄目である。考えて
みると耳と尻尾は餅と何等の関係もない。・・
ええ面倒だと両足を一度に使う。すると不思議な事
にこの時だけは後足二本で立つ事が出来た。何だか
猫でない様な感じがする。・・
吾輩が一生懸命餅の魔と戦っていると、何だか足音
がして奧より人が来る様な気合(けはい)である。
・・・
「あら猫がお雑煮を食べて踊(おどり)を踊っている」
と大きな声をする。・・御三(オサン)も・・
「あらまあ」と飛び込んで来る。・・主人さえ書斎
から出て来て「この馬鹿野郎」といった。・・
腹は立つ、苦しくはある・・弱った。・・大変笑われた。
・・この時程(人間を)恨めしく感じた事はなかった。」

panse280
posted at 07:18

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