2015年04月06日

悲劇に赴くの第一理由

「漱石全集第18巻」(23)
--文学論--

夏目漱石 1867-1916
souseki natsume

1979.8.8 第7刷発行(岩波書店)

<悲劇に赴くの第一理由>
演劇は人生の再現にして、しかも人生よりも
強き再現なり。人生を縮写して、注意を狭き
舞台に集注するがゆえに如何なる演劇も吾人
(傍観するだけの働きよりなき吾人)に普通
以上の程度において人生の実在を明瞭に意識
せしむ。
しかして悲劇にあってはその功もっとも顕著
なりとす。
悲劇に関する所は死生の大問題なり。
死生の大問題は皆苦痛ならざるはなし。
ただその苦痛は仮の苦痛なり。
仮装なるがゆえに一大安心あり。
これ吾人が好んで悲劇に赴くの第一理由なら
ざるか。

panse280
posted at 07:48

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