2015年02月08日

父(漱石)の死

「父・夏目漱石」(3)
夏目伸六 1908-1975
shinroku matsume

1992.6.25 第3刷発行(文春文庫)

<父の死>
大正5年の12月9日はぽかぽかと暖かいいい天気
だった。
私は小学二年生であった。土曜日の半ドンでうき
うきしながら帰ってきた。
女中が涙を流して「早く、早く・・」
私は父が病気で悪いことは知っていたが父が死ぬ
という懸念は微塵もなかった。
父の枕元に坐った時、父は突然眼をあけてニッと
異様な笑い顔をした。父のこんな顔はみたことが
なかった。
・・・
姉たちは声をあげて泣いていた。
「泣くんじゃない、泣くんじゃない、いい子だから」
父のこんなやさしい声を聞いたのも、私はこの時
が初めてだった。
私は泣いてもいなかったし、悲しささえも感じて
いなかった。
父はその夕方死んでしまった。

panse280
posted at 20:48

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