2014年09月02日
三蔵法師が見つめるもの
「中島敦」(9)
中島敦 1909-1942
atsushi nakajima
2008.3.10 第1刷発行(ちくま日本文学012)
【悟浄歎異】(9)
--沙門悟浄の手記--
<三蔵法師が見つめるもの>
「三蔵法師の澄んだ寂しげな眼を思い出した。常に
遠くを見詰めているような・何物かに対する憐れみ
をいつも湛えているような眼である。
それが何に対する憐れみなのか、平生は一向見当が
付かないでいたが、今、ひょいと、判ったような気
がした。
師父はいつも永遠を見ていられる。それから、その
永遠と対比された地上のなべてのものの運命をも
はっきりと見ておられる。
・・
星を見ていると、何だかそんな気がして来た。俺は
起上って、隣に寝ておられる師父の顔を覗き込む。
しばらくその安らかな寝顔を見、静かな寝息を聞いて
いる中に、俺は、心の奥に何かがポッと点火された
ようなほの温かさを感じて来た。」
中島敦 1909-1942
atsushi nakajima
2008.3.10 第1刷発行(ちくま日本文学012)
【悟浄歎異】(9)
--沙門悟浄の手記--
<三蔵法師が見つめるもの>
「三蔵法師の澄んだ寂しげな眼を思い出した。常に
遠くを見詰めているような・何物かに対する憐れみ
をいつも湛えているような眼である。
それが何に対する憐れみなのか、平生は一向見当が
付かないでいたが、今、ひょいと、判ったような気
がした。
師父はいつも永遠を見ていられる。それから、その
永遠と対比された地上のなべてのものの運命をも
はっきりと見ておられる。
・・
星を見ていると、何だかそんな気がして来た。俺は
起上って、隣に寝ておられる師父の顔を覗き込む。
しばらくその安らかな寝顔を見、静かな寝息を聞いて
いる中に、俺は、心の奥に何かがポッと点火された
ようなほの温かさを感じて来た。」