2014年04月16日

大工の話

「直観を磨くもの」
小林秀雄対話集
hideo kobayashi 1929-1983

2014.1.1 発行(新潮文庫)

<大工の話>
「仕事場に行って、先輩の年よりの大工と一緒に
仕事をしていて、小がんなを忘れて来たんだな。
じいさんに「ちょっと小がんなを貸してくれ」と
いったら、「あいよ」といって、「あれば重宝な
ものさ」といって貸してくれたんだってさ。
そしたら、そのときに妙な表情をしたっていうん
だな。そのじいさんの大工がね。ニヤッと笑って
妙な顔をして見たというんだよ。
相手を見ながら、「あいよ」といって貸してくれ
た。それからあとでね、そのときのじいさんの表
情を、あれは何て顔したんだろうと思った。
ふっと、ああそうか、その時にじいさん、まるで
女房を貸せっていわれたような気がしたんじゃな
いか、ということに思い当たるんだな。
それでなるほどと思って、それがあの時の顔だと
いうことに、それに違いないと気がついてね、
とても恥ずかしくなった。
もうあまり恥ずかしくてたまらなくなってね、
地面を這って歩いたという話を書いていてね。
ぼくはとてもおもしろい話だなあと思ってまだ
覚えているんだがね。」

panse280
posted at 19:34

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