2012年07月02日

葉隠

「日本人養成講座」(6)
三島由紀夫  1925-1970
yukio mishima
1999.10.8 第一刷発行(株式会社メタローグ)

<葉隠>
「私(三島)は戦争中から読みだして、今も時折
「葉隠」を読む。・・行動の知恵と決意がおのずと
逆説を生んでゆく、類のないふしぎな道徳書。
いかにも精気にあふれ、いかにも明朗な、人間的な
書物。・・・そしておどろくべき世間智が、いささか
のシニシズムも含まれずに語られる、ラ・ロシュフコオ
を読むときの後味の悪さとまさに対蹠(たいせき)的
なもの。
「葉隠」ほど、道徳的に自尊心を解放した本はあまり
見当らぬ。・・(「武士たる者は、武勇に大高慢をなし、
死狂ひの覚悟が肝要なり」)・・
行動人の便宜主義とでも謂ったものが、葉隠の生活
道徳である。
・・・
今日のわれわれには、これを理想国の物語と読むことが
可能なのである。私にも、もしこの理想国が完全に実現
されれば、そこの住人は、現代のわれわれよりも、はる
かに幸福で自由だということが、ほぼ確実に思われる。
しかし確実に存在したのは、常朝の夢想だけである。
葉隠の著者は、時代病に対する過激な療法を考えた。
人間精神の分裂を予感した彼は、分裂の不幸を警告した。
「物が二つになるが悪しきなり」単純さへの信仰と讃美
をよみがえらさねばならぬ。・・・彼は情熱の法則に
ついて知悉していた。
・・・
「只今の一念より外はこれなく候。一念々々と重ねて
一生なり。ここに覚えつき候へば、外に忙しき事もなく、
求むることもなし。ここの一念を守って暮すまでなり」
・・・
(常朝は)六十一歳で畳の上で死んだ。」

panse280
posted at 20:10

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