2012年05月16日

ネール首相

「反貞女大学」(29)

三島由紀夫  1925-1970
yukio mishima
1994.12.05 第1刷発行(ちくま文庫)

--第一の性--
<ネール首相>
「私(三島)自身はネール首相という人物はあまり
好きではありませんでした。
・・・
高遠な理想を高くかかげ、平和主義者で、原水爆実験
反対で、ヒューマニストで、貴族的な鼻をしていて、
趣味は登山、というような男。
私はどうもこういう男を見ると、家の中は火の車だろう、
と想像する癖があるのです。
・・・
そして高い鼻を、物干からはるか日本アルプスのほうへ
向けて、新雪にあこがれたりしている。自分の子供に
満足な洋服も着せてやれないくせに、人類愛に燃え立った
りしている。
・・・
女性が一番ダマされやすいタチの男が、この疑似ネール型
であることです。
男というものは、胸の炎を奥深く隠しているべきで、表面
は、しじゅう冗談ばっかり言っているものだ、というのが、
どうしても変わらぬ私の戦中派的男性観で、胸の炎である
べき理想主義が、アイスクリーム屋の看板みたいに、冷たく、
白く、美しく、清潔なデザインで、鼻の先にぶら下がって
いる男は、まずニセモノと決めてかかるのが私の度々申上
げた悪い癖です。
・・・
女にモテるには、「この人は私にまじめに本当の事を話し
てくれる人だわ」という印象を女に与えることが第一で
ある。しかし、それは、身も蓋もないことを言えば、女性
の知的劣等感の現われではないでしょうか?
一人前の女性に向かって、学校の先生みたいなまじめで
誠実な話をする男を、そんなにありがたがるのは、女性が
まだ生徒でありたいからではないでしょうか?」

panse280
posted at 20:37

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