2011年06月05日

則天去私

「世界文学のスーパースター夏目漱石」(1)

ダミアン・フラナガン 1969-
damian flanagan

2007.11.29 第1刷発行(講談社インターナショナル)

<本の帯より>--ドナルド・キーン氏推薦--

「ジョイスでもプルーストでもトルストイでもない。
世界の文豪は夏目漱石とシェイクスピアだ!」

「東西の思想を超える宇宙観を築いたがゆえに
世界から無私されてきた漱石。だがその宇宙観に
こそ時代を超える普遍性がある。漱石の真価が
わかるのは日本人だけじゃない!漱石が世界に
”メジャーデビュー”する日はこれからだ。
「漱石の時代」は今はじまったばかりなのだから。」

<則天去私>
「「則天去私」という言葉が禅思想にたいする漱石の
興味から発したことはまちがいないが、それ以上に、
未完となった遺作「明暗」に見られる、作家の主観から
離れた作風を象徴しているのではないかと思う。」

「漱石は初期のころから、前作の説とは対立する説、
そして前作とは異なる文体を持ち込むことによって、
作品を発展させていった作家だ。だから彼が「道草」
という「私」的な小説を完成させたあと、「私」を
超えた「無私の小説」を書こうと思ったところで、
なんら不思議はない。」

補記:吉本隆明は<明暗>について以下のように書いた。

「漱石の作品には漱石自身のこころや理念の分身とおも
えるものを幾分か投入された主人物が出てきたり、ある
いはなんらかの意味で漱石の感情とか、理念を、登場人
物に移入してあるわけですが、「明暗」だけはそういう
ことがないのです。
つまり、ある意味では、漱石にとって初めての小説らし
い小説を書いたというふうにもいえますし、初めて、ど
んな登場人物でも、相対的な目でながめるひとつの視点
を獲得したともいえます。」
「「明暗」だけは、ごくふつうの人物を描きだしていて、
漱石らしい狂気じみた人も、また非凡な人も、それから
神経症的な言動の人も出てきません。初めて漱石自身の
影は作品の外に置きまして、相対的にふつうの登場人物
を描いていくことをやっています。
・・・・
漱石が芸術的にといいましょうか、たいへん円熟したと
きですから、作品の構成上で破綻が少ないということでは、
いちばんいい作品なんじゃないかとおもいます。それが
未完のこの作品の結末を読者に空想させるのだとおもい
ます。」

「「明暗」という作品は、漱石が初めて女性と女性との
ぶつかり方、かかわり方を自信をもって描いた作品じゃ
ないかとおもいます。」

panse280
posted at 20:46

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