2011年06月03日

「野分」とショーペンハウエル

「日本人が知らない夏目漱石」(3)

ダミアン・フラナガン 1969-
damian flanagan

2003.7.10 第1刷発行(世界思想社)

<ニーチェとショーペンハウエル>
姉崎正治は、ショーペンハウエルを小乗仏教、
ニーチェを大乗仏教として捉えた。

姉崎正治は日本の宗教学研究の発展の基礎を築いた人物。
私(姉崎)は唯識の全体像を把握した時、思わず
「なんだ、これは。まるでショウペンハウエル哲学その
ものじゃないか!」と叫びました。ショーペンハウエル
の主著は姉崎正治の訳によって日本に広まった。

明治42年に生田長江は「ツァラツストラ」の翻訳を始めた。
そして、漱石に援助を求めた。漱石は1896年のアレクサンダー・
ティールの英訳と1908年のトマス・コンモンの英訳で
「ツァラツストラ」を精読していたのだ。漱石はドイツ
語もできてトルストイの小説をドイツ語で読んでいた。
またフランス語の能力を高める欲望もしめしていた。
生田は漱石に嫌われていて、「それから」の寺尾として、
仕事にだらしない翻訳者として書かれている。生田は
耐えられずに、その後、森鴎外のもとに走った。
なぜ漱石は生田を嫌ったのか。それは底の浅い学問で有名に
なった高山樗牛を生田が崇拝したからだと言われている。

漱石はニーチェとショーペンハウエルを禅思想と比較検討する。
「野分」でショーペンハウエルの思想が重要な役割を果たして
いる。
道也がいくつかニーチェ的な性格の要素を見せるのと対照的に、
高柳はショーペンハウエル的な厭世観に染められている。
ショーペンハウエルの理論を鮮烈に表している音楽会といった
記憶すべき場面を漱石は持ち込む。音楽がまた始まると、高柳
は天井の模様を見ながら、寺の中に入った気がする。これも
漱石がショウペンハウエル思想の万有意志を仏教に関連させた
ことを裏付けている。


panse280
posted at 22:02

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