2008年05月21日

帝国ツイニ敵ニ屈ス

山田風太郎 1922-2001
fuutaro yamada

「戦中派不戦日記」(4)


7/24 本日終日、ラジオ、敵機の各地空襲を報じている。

7/29 「婦系図(鏡花)」を読む。これだけ愚なる内容を
これだけ引きずってゆく鏡花の手腕感服するに足れり。

8/6 ドイツ処分案苛酷を極む。第二のドイツと目されて
いる日本を思うとき、決して笑いごとではない。
降伏するより全部滅亡したほうが、憤慨とか理念とかは
さておいて、事実として幸福である。

8/8 広島空襲に関する大本営発表。来襲せる敵は少数機と
あり。敵が新型爆弾を使用。

8/9 夕のラジオは、ソビエトがついに日本に対し交戦状態
に入ったことを通告し、その空軍陸軍が満州進入を開始し
たと伝えた。

8/10 日本人の大部分は、理性的にはこの戦争には勝てまい
と考えている。しかし感情的には、まさか負けやしないだ
ろうとまだ考えている。
日本と戦争したらトコトンまでゆく、そういう歴史的印象
を与えることは、後代にとって幸福とならざるをえない。

8/11 佐々教授のいえるは、敵が今回使用せる爆弾を指せる
なり、原子爆弾なりと伝えられる。
余は、日本の命脈があと二、三ヶ月のごとき感じ、昨夜
せり。しかれどももしこれが事実ならば、あと十日とすら
思う。・・・残念なり。無念なり。無念なれど、完全なる
「科学の敗北」なり。
ソ連8日に宣戦してすでにきょう4日目、日本政府の沈黙せ
るは何ぞや。・・・何かある。この何かは必ず近日中に
現われん。

8/15(水)炎天 帝国ツイニ敵ニ屈ス。

panse280
posted at 22:59

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