2007年08月13日

親友、松原君の思い出

岡潔1901-1978
kiyoshi oka

「春宵十話」(17)


<親友、松原君の思い出>
「リーの主著「変換群論」を読み上げるのだと
いって、ドイツ語で書かれた一冊、六、七百ページ、
全三冊のその本を小脇に抱え、かすりの着物に
小倉のはかまをはいて、講義を休んで大学の
図書館に通っていた。
・・・
この松原があと微分幾何の単位だけ取れば卒業と
いうとき、その試験期日を間違えてしまい、
来てみると、もう前日すんでいた。
・・・
その時である。松原はこう言い切ったものだ。
「自分はこの講義はみな聞いた。これで試験の
準備もちゃんとすませた。自分のなすべきことは
もう残っていない。学校の規則がどうなっていよう
と、自分の関しないことだ」
そしてそのままさっさと家に帰ってしまった。この
ため当然、卒業証書はもらわずじまいだった。
理路整然とした行為とはこのことではないだろうか。
もちろん私など遠く及ばない。
私はその後いく度この畏友の姿を思い浮べ、愚かな
自分をそのつど、どうにか梶取ってきたことか
わからない。」

panse280
posted at 21:12

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