2007年06月02日

宮沢賢治/無償の質

吉本隆明1924-
takaaki yoshimoto

「宮沢賢治」(4)


<無償の質>
「宮沢賢治の作品には、自在にのびちぢみし、
角度をかえながら景物にしみとおってゆく視線、
またその視線の全体を生と死の境界の向う側か
ら統御している眼がある。
わたしたちはそこに、物の像の恐怖や、蒼く暗
い色彩や、黄や白や灯火や星のような、きらきら
した花の色彩をみたりする。また宝石の硬質な
きらびやかなかがやきをみることもある。だが
視線のなかにいるかぎる言葉の意味は忘れられ
ている。
いちばんおわりのおさえ方をすれば、言葉で
つづった作品にはかならず意味がきっとつきま
とっていて、それからは逃れられない。言葉が
よびおこす像(イメージ)にじゅうぶん拮抗
しながら、同時に意味の官能をかれの作品に
あたえているのは、独特な無償の質と、それを
倫理へ組みかえ、もしかすると宗教的な情操の
要請にまでもっていくひとつの力能だとおもえ
る。」

panse280
posted at 20:52

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