2007年04月08日

漱石と宮沢賢治、孤独の質

吉本隆明1924-
takaaki yoshimoto

「吉本隆明全著作集(15)初期作品集」(10)


<宮沢賢治論>(6)

・漱石と宮沢賢治、孤独の質

「宮沢賢治の孤高もレベルを絶した偉大な魂
の悩みとしては、漱石と同様なものに外なり
ませんでした。
けれど不思議な事に彼の孤高の精神は少なく
とも外面的には低俗な周囲との調和を失って
は居ません。ここに宮沢賢治の特異性があった
やうに思はれます。」

「彼(賢治)の孤独の精神が低俗への反発から
由来したのではないといふ事は、彼が人間性に
対する深い苦悩よりも自然科学的な修練の結果
としてその孤独の精神を抱いたことを意味して
います。
そしてその結果は彼の孤独性に得も言はれぬ寒
冷な部分を導入致しました。
夏目漱石の孤高は内的には惨憺たる自意識の格
闘があり、外的には周囲の低俗との激しい反発
に露呈していますが、その根源に於て人間性に
対する暖い愛を感じさせ、その愛が余りに清潔
であったための悲劇と解することが出来ます。
漱石の苦悩には暖いものがあふれているのです。
しかるに宮沢賢治の孤独は周囲の低俗とは調和
を保ちながら、実は徹底した冷たさを感ぜずに
は居られません。
人々は彼の孤独に於て人間性の底に横はる愛を
発見することは出来ないのです。
・・・
彼(賢治)の孤独は低俗に対する孤独ではなく
て、大きな自然の輪廻の中におかれた人類の心
の孤独と言ふことができます。」

panse280
posted at 18:44

トラックバックURL

コメントする

名前
 
  絵文字