八戒の愉しみ
「中島敦」(7)
中島敦 1909-1942
atsushi nakajima
2008.3.10 第1刷発行(ちくま日本文学012)
【悟浄歎異】(7)
--沙門悟浄の手記--
<八戒の愉しみ>
「八戒、・・この豚は怖ろしくこの生を、この世を
愛しておる。嗅覚・味覚・触覚のすべてを挙げて、
この世に執しておる。
・・
八戒は、自分がこの世で楽しいと思う事柄を一つ一つ
数え立てた。夏の木陰の午睡。渓流の水浴。月夜の吹笛。
春暁の朝寝。冬夜の炉辺歓談・・・何と愉しげに、また、
何と数多くの項目を彼は数え立てたことだろう!
殊に、若い女人の肉体の美しさと、四季それぞれの
食物の味に言い及んだ時、彼の言葉はいつまで経っても
尽きぬもののように思われた。
・・
なるほど、楽しむにも才能の要るものだなと俺は気が
付き、爾来、この豚を軽蔑することを止めた。」
中島敦 1909-1942
atsushi nakajima
2008.3.10 第1刷発行(ちくま日本文学012)
【悟浄歎異】(7)
--沙門悟浄の手記--
<八戒の愉しみ>
「八戒、・・この豚は怖ろしくこの生を、この世を
愛しておる。嗅覚・味覚・触覚のすべてを挙げて、
この世に執しておる。
・・
八戒は、自分がこの世で楽しいと思う事柄を一つ一つ
数え立てた。夏の木陰の午睡。渓流の水浴。月夜の吹笛。
春暁の朝寝。冬夜の炉辺歓談・・・何と愉しげに、また、
何と数多くの項目を彼は数え立てたことだろう!
殊に、若い女人の肉体の美しさと、四季それぞれの
食物の味に言い及んだ時、彼の言葉はいつまで経っても
尽きぬもののように思われた。
・・
なるほど、楽しむにも才能の要るものだなと俺は気が
付き、爾来、この豚を軽蔑することを止めた。」