空飛ぶ円盤研究会
「不道徳教育講座」(21)
三島由紀夫 1925-1970
yukio mishima
2010.5.15 改版25版発行(角川文庫)
<怪力乱神を語らず(孔子)>
「私(三島)は、石原慎太郎や黛敏郎氏と共に、
「空飛ぶ円盤研究会」の会員であって、・・・
マニアです。
(ある友人から直接聞いた話ですが、不思議な
会合に誘われていったA君は相手に言った)
「ひとつ僕の前でその気合を見せてくれませんか」
「お安い御用だが」と鉄工所の主人が「しかし
このごろ久しくやらないから、どうかな。まあ
茶托ぐらいなら、何とかなるだろう」
鉄工所の主人は、茶碗をわきにどけ、茶托を前に
して、じっと正座して、手に印を結び、何か呪文
を称えはじめました。A君は目を皿のようにして
これをじっと見つめている。鉄工所の主人の体が、
だんだんふるえてきて、顔は真赤になってしまった。
そのとたんに、茶托は、A君の目の前で、スーッと
飛び上り、部屋の外れの障子のところまで飛んで、
高い桟に音を立ててぶつかって、パタリと畳に落ちた。
A君は総身に水を浴びたようなショックを味わいました。
・・・
「どうしてこんな霊力を、銀座のまんなかで披露
なさらないんです。そうしたら、忽ち有名になる
でしょうに」
・・・
(こんな話を一時間もしている間にY先生の声が
玄関にした)
入って来た先生に、学友がA君を紹介すると、先生
はA君をじっと見据えながら、こう言うのでした。
「ウム、なかなかいい青年だ。しかし君、折角の行を
みせてもらって、「なぜ銀座のまんなかで披露なさ
らないんです」などと言うのは、不謹慎のそしりを
免れないな」
A君は、先生自身がそこにいなかった一時間前の会話
をちゃんと知っている先生の霊力に、ぞっとした
そうであります。
・・・
しかし怪力乱神は、どうもどこかに実在するらしい、
というのが私(三島)のカンである。」
三島由紀夫 1925-1970
yukio mishima
2010.5.15 改版25版発行(角川文庫)
<怪力乱神を語らず(孔子)>
「私(三島)は、石原慎太郎や黛敏郎氏と共に、
「空飛ぶ円盤研究会」の会員であって、・・・
マニアです。
(ある友人から直接聞いた話ですが、不思議な
会合に誘われていったA君は相手に言った)
「ひとつ僕の前でその気合を見せてくれませんか」
「お安い御用だが」と鉄工所の主人が「しかし
このごろ久しくやらないから、どうかな。まあ
茶托ぐらいなら、何とかなるだろう」
鉄工所の主人は、茶碗をわきにどけ、茶托を前に
して、じっと正座して、手に印を結び、何か呪文
を称えはじめました。A君は目を皿のようにして
これをじっと見つめている。鉄工所の主人の体が、
だんだんふるえてきて、顔は真赤になってしまった。
そのとたんに、茶托は、A君の目の前で、スーッと
飛び上り、部屋の外れの障子のところまで飛んで、
高い桟に音を立ててぶつかって、パタリと畳に落ちた。
A君は総身に水を浴びたようなショックを味わいました。
・・・
「どうしてこんな霊力を、銀座のまんなかで披露
なさらないんです。そうしたら、忽ち有名になる
でしょうに」
・・・
(こんな話を一時間もしている間にY先生の声が
玄関にした)
入って来た先生に、学友がA君を紹介すると、先生
はA君をじっと見据えながら、こう言うのでした。
「ウム、なかなかいい青年だ。しかし君、折角の行を
みせてもらって、「なぜ銀座のまんなかで披露なさ
らないんです」などと言うのは、不謹慎のそしりを
免れないな」
A君は、先生自身がそこにいなかった一時間前の会話
をちゃんと知っている先生の霊力に、ぞっとした
そうであります。
・・・
しかし怪力乱神は、どうもどこかに実在するらしい、
というのが私(三島)のカンである。」