2006年12月11日

一番好きな作品

吉本隆明1924-
takaaki yoshimoto

「夏目漱石を読む」(10)


<一番好きな作品>
「お米が、そんなにごろっとしているなら、
ちょっと散歩にでも行ってきたらどうですか
といいます。宗助のほうは生返事して、奥方に、
おまえ「近来(きんらい)」のキンという字を
どう書くか知っているか、といいます。
そうすると、それは「近江(おうみ)」という
地名のオウという字でしょうという。
その近江のオウの字がわからないんだと宗助が
いうと、細君が障子を開けて物差しで「近」と
いう字を書いてみせる、そういう場面です。
おまえはそういうことがないかな、じぶんは
しばしば、いままでちゃんと覚えている字が、
なんか突然わからなくなることがあるんだ、
・・・・
漱石の作品のなかで、この「門」が前から
一番好きな作品です。
いちばんいい作品だとはけっしておもいません
けれど、いちばん好きな作品です。
どうして好きなんだろうかということをかんがえ
てみました。
それはひとつは、いまいったような日常の一コマ
で、ちっとも興味深い場面でもない夫婦の生活の
場面の重なりですが、それが実に見事だということ
が大きいんだなと感じました。」

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