2006年02月28日

切腹(2)

新渡戸稲造1862-1933
inazo nitobe

「武士道」(11)


<切腹(2)>
左近、内記という二人の兄弟、兄は二十四歳、弟は
十七歳であったが、父の仇を報ずるために家康暗殺を
企てたが失敗、捕らえられた。
家康はその勇気を愛でて、末弟八麿、八歳を加え、三人
の兄弟に名誉の死(切腹)を与えた。

「彼らが皆並んで最後の座に着いた時、左近は末弟に
向いて、「八麿よりまず腹切れよ、切損じなきよう見届け
くれんぞ」と言った。稚(おさな)きは答えて、ついぞ
切腹を見たることなければ、兄のなさん様を見て己れも
これに倣わんと言えば、兄は涙ながらに微笑み、「いみじく
も申したり、健気(けなげ)の稚児(ちご)や、汝父の子
たるに恥じず」とて、二人の間に八麿を座らせ、左近は左の
腹に刀を突き立てて「弟これを見よや、会得せしか、あまり
に深く掻(か)くな、仰向けに倒れるぞ、俯伏(うつふ)して
膝をくずすな」。
内記も同じく腹掻き切りながら弟に言った、「目を刮(かつ)と
開けや、さらずば死顔の女にまごうべきぞ。
切尖(きっさき)淀むとも、また力撓(たわ)むとも、さらに
勇気を鼓して引き廻せや」。
八麿は兄のなす様を見、両人の共に息絶ゆるや、静かに肌を
脱ぎて、左右より教えられしごとく物の見事に腹切り了(お
わ)った」。

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